“日本経済新聞 トップ 朝刊・夕刊 LIVE Myニュース 米企業8割、マーケティング業務を内製化 Google新サービスが追い風 生成AI時代の新マーケ論 セルフ式こそ最強(1) コラム  2025年7月19日 2:00 [会員限定記事]           山口周さんの投稿   マーケティングの世界ではここ数年、「セルフ式(内製化)」の流れが加速している。全米広告主協会(ANA)によると、マーケティング業務をセルフ式にしている米国企業の割合は年々増えており、2008年には42%だったのが、13年には58%、18年には78%、そして23年には82%にまで達している。 「企業が内部に広告代理店のような機能を持つことは、もはやトレンドではない。総合的なマーケティングエコシステムの一部としてしっかりと定着している」(ANA) セルフ式にした主な業務は以下の3種類だ。 (1)デジタルメディアのクリエーティブ(ソーシャルメディア、検索、メール関連) (2)デジタルメディア以外のクリエーティブ(各種印刷、ダイレクトメール、社内報、屋外広告、ラジオ) (3)メディアサービス(ソーシャルメディア、検索、メディア戦略) セルフ式を推進する最大の狙いは、言うまでもなくコスト削減だ。62%の企業が、コスト削減を重要業績評価指標(KPI)に据えて、セルフ式に取り組んでいる。 ただし、コスト削減を目的とした企業は18年の69%から7ポイント減っており、逆に増えているのが事業パフォーマンスの向上だ。18年の45%から14ポイント増え、KPIとして重視する企業の割合は23年には59%にまで高まっている。要は、マーケティング施策をより効果的に実施するために、セルフ式を志向する企業が増えていると言っていい。  全米広告主協会が2023年に発表したリポート「The Continued Rise of the In-House Agency: 2023 Edition」には、米国企業がセルフ式マーケティングを進めている実態が示されている こうしたセルフ式の波は日本にも押し寄せている。 シナジーマーケティング(大阪市)が21年に立ち上げた、デジタルマーケティングのセルフ式支援サービス「DX BOOSTER」は、ITサービスのSCSKや、金融機関の長野銀行などが採用に踏み切った。結果として、マーケティング施策の設計立案や実行を自走可能にする体制を整えることに成功している。 さらに、24年にマーケティングの動画研修サービス「サクデジ」を開始したところ、2カ月で100社以上の企業が申し込む盛況ぶり。「セルフ式に向けた第1ステップとして、体系的な知識をまず社員に定着させたいと考える企業からの問い合わせが多く舞い込む。こうしたニーズの受け皿をサクデジが担っている」(シナジーマーケティングDX事業部ビジネスマネージャーWebコンサルタントの鈴木英利佳氏) セルフ式に追い風、グーグル「AI Max」の衝撃 コスト削減が期待でき、しかも事業パフォーマンスの最大化も期待できる以上、マーケティングの軸足をセルフ式に移す流れはさらに加速しそうだ。 見逃せないのが、マーケティングツールの自動化が生成AIによってさらに進展し、パワフルなセルフ式環境を整備するのを後押ししている事実だ。 米グーグルは広告などマーケティングの最新情報を紹介するイベント「グーグル・マーケティング・ライブ」を例年実施しており、直近に開いた25年のイベントでは「AIマックス・フォー・サーチ・キャンペーン(以下AI Max)」を発表。その先進ぶりは、セルフ式マーケティングを志向する企業の担当者を大いに沸かせた。 というのもAI Maxは、ネット検索で入力された単純なキーワードから、AIが検索者の本当の意図をくみ取って適切な広告を表示できるからだ。AIが単語から文脈を読み取り、従来の仕組みでは表示対象にならなかった広告でも文脈に合えば表示する。しかも、表示するキャッチコピーを、動的に変化させられる。 イベントのデモでは、「大家族向けの電動SUV(多目的スポーツ車)」というキーワードに対して、ボルボの7人乗り大型SUV「EX90」が最適とAIが判断し広告を表示。「完全電気駆動のEX90プレミアムな7人乗りSUVをご体験ください」というキャッチフレーズを自動生成する様子を披露した。コンバージョン(成約)数は、以前より27%高まったという。  2025年に米シリコンバレーで開かれた「グーグル・マーケティング・ライブ」では最新AI技術でマーケティングを自動化するツール「AI Max」が発表され、会場を大いに沸かせた グーグルは既に「P-MAXキャンペーン」と呼ぶ、指定したコンバージョン目標に近づくよう、ネット広告のパフォーマンスを最大化するサービスを提供中。検索やディスプレー、ユーチューブなどを横断し、AIが自動的に配信先を決めてくれる点が評価され、家電量販大手のヤマダデンキなどが導入済みだ。 このP-MAXにAI Maxが組み合わさることで、より高度な自動運用が実施可能になる。生成AIの技術進展によって、セルフ式マーケティングが促されることを象徴するサービスと言えよう。 グーグル・マーケティング・ライブで明らかになった様々な発表を見て、マーケターとして豊富な経験を持つStrategy Partners(ストラテジーパートナーズ、東京・港)社長の西口一希氏は、衝撃を受けたという。「マーケティングの仕事で日々考えていることを、すべて埋めるように(AIの)機能がそろってきていると感じる」(西口氏) こうしたツールの急速な進化ぶりは、人手などのリソース不足を理由にマーケティング施策で新しい一手を繰り出せないと悩んでいた企業にとっては朗報だ。裏を返すと、今こそセルフ式に挑戦する好機がやってきたと言っていい。 「広告代理店不要論」の光と影 セルフ式マーケティングの話題を持ち出すと、必ず出てくるのが「広告代理店不要論」だ。広告代理店に頼ってきた業務が自社で賄えるのだから、外部に頼る必要がなくなるとの意見だ。 しかしながら、従来広告代理店など外部に任せていた業務を社内に移管するに当たって、コスト削減などを優先しすぎて適切な見極めをし損なっては本末転倒だ。 逆に業務負担が増加し、思った通りの効果を上げられないリスクも伴う。前出のANAの調査では、88%の企業がセルフ式導入によって作業負荷が高まり、そのうち67%が「とても高まった」と答えている。こうしたことから92%の企業は、実はセルフ式にしつつも、引き続き広告代理店を活用しているのが実態なのだ。 「複雑すぎる」ことを理由に外注のままに据え置かれやすい一例が、メディアプランニングや広告枠の買い付けである。そこでセルフ式と外部委託をバランスよく併用することで、コスト削減と事業パフォーマンスを両立させている企業が多い。 似たような見立てをしている企業が、国内にもある。いち早くセルフ式マーケティングの効用に目をつけ、体制づくりを推進してきたRIZAPグループだ。 「メディアバイイングは、そのノウハウをなかなか社内で持つのが難しい。メディアの買い付けは広告代理店に任せて、クリエーティブは自前でやるなど、適切な業務分担が重要になる」(RIZAPグループ執行役員マーケティング本部副本部長の田牧友里絵氏)  RIZAPグループ執行役員マーケティング本部副本部長の田牧友里絵氏 要は、何が自分たちでできるのか、やるべきなのか、そして外部を頼るべき点は何なのかなど、マーケティング関連の業務一つ一つを因数分解し、判断基準を磨くことこそが、セルフ式を成功に導くかどうかの分水嶺だということ。 セルフ式マーケティングを志向しながら、判断基準をきちんと見いだした上で、一定の手応えを感じている企業は、安直に「外部切り捨て」など実施せず、属人的ではなくチームとして業務フローの実態と価値や意義を見極めている。生成AI時代のマーケティングは、セルフ式こそが最強。次代のマーケティングのあるべき姿である。 (日経クロストレンド 高田学也) [日経クロストレンド2025年6月30日の記事を再構成]  日経クロストレンド マーケティングや消費者分析、商品開発、新規事業の先端動向を伝えるデジタルメディア。「日経トレンディ」「日経デザイン」もお読みいただけます。日経読者なら割引料金でご利用いただけます。 詳細・お申し込みはこちら https://info.nikkei.com/nxr/subscription-nk/  多様な観点からニュースを考える ※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。  山口周 著作家/ライプニッツ代表  分析・考察興味深い流れと思います。文中に「メディアの買い付けは複雑過ぎて内製化は高負荷」とありますが、これは代理店側の思惑でもあります。本来、メディアの枠は情報を整理・公開すればオークション形式での販売が可能なはずですが、それを敢えてしないことで「複雑で人手がかかる仕組み」を維持してる。これが記事の指摘する通り「広告主による内製化」を防いでいるわけですが、取引の複雑さは代理店のコストとなり、そのコストは顧客である広告主、さらには広告主の商品を購入する消費者が負担することになります。つまり結局のところ、この「取引の複雑さ」によるコストは社会全体で負担することになるわけですから、なんとかして欲しいモノです。 2025年7月19日 4:24 (2025年7月19日 4:29更新)  21          関連リンク 日経BPの関連記事 西口氏が語るGoogle AIの衝撃 「マーケティング業務はなくなる方向へ」 マーケティング内製化を成功に導く3法則 電通も支援事業に参入 神戸市、クリエイティブ改革の全貌 セルフ化で低コスト高品質を実現 新市場を創る人のデジタル戦略メディア「日経クロストレンド」 関連トピック トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。  情報通信・ネット  日経クロストレンド こちらもおすすめ(自動検索) Google年次イベント 人の関心AI読み解き、広告自動生成 6月30日  AIが促す脱キーワード検索 ウェブメディアの「今そこにある危機」 6月19日  PerplexityのAI検索、広告開始へ Googleの牙城崩すか 2月7日  デジタル広告詐欺、世界の被害約13兆円 生成AI悪用 3月29日  関連企業・業界 企業: #SCSK #RIZAPグループ 関連キーワード #サービス開始 #西口一希 #民間統計 #KPI #グーグル・マーケティング・ライブ #サクデジ AI推薦 トピック : AI メタ、欧州AI規制法の行動規範に署名せず 「過剰だ」と批判 4:48  ロイター トピック : 編集委員 パックンと動画で学ぶ アクティブファンドの選び方 4:00  トピック : 編集委員 全身性強皮症で患者会設立 治療薬の再申請求め活動続く 2:00  よく読むジャンル・キーワード こち亀記念館、台湾の若者も魅了 原画複数展示・作中アイテムも体験 2:00  速報ニュース 14:45 JR高崎駅が「ぐんまちゃん駅」に 温泉地など魅力PR、9月末まで 14:30 アステラス社員、中国で上訴しない方針 「スパイ活動」で実刑判決 14:00 大阪万博、ネパール館が開館 全84パビリオンの展示そろう 13:59 更新 鈴木誠也が26号3ラン、ナリーグ最速80打点 大谷翔平は無安打 13:25 DeNA、元中日ビシエド獲得を発表 三浦大輔監督「頼もしい」 アクセスランキング 15:00 更新 参院選「外国人優遇」の虚実 不動産・生活保護に矛先、浮足立つ与野党 「残クレアルファード」損得は 金利と追加費用に注意 中国人留学生を優遇? 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