中国製AIのディープシークについては西側諸国で懸念の声も出ていた=ロイター
【ウィーン=田中孝幸】イタリアのデータ保護当局(ガランテ)は29日、中国の新興企業、DeepSeek(ディープシーク)が開発した生成人工知能(AI)サービスを巡り、個人情報の取り扱いについて同社に20日以内の説明を求めていると明らかにした。
アイルランドのデータ保護当局も同日、ディープシークに同国のユーザーに関連するデータ処理について情報提供を求めたと発表した。中国のデータ保護を懸念する欧州各国でさらに監視強化の動きが広がる可能性がある。
同日にはイタリアでのグーグルとアップルのアプリストアで、ディープシークのアプリがダウンロードできなくなった。ガランテの説明要請を踏まえた動きとみられる。ディープシークは最近、アプリストアのダウンロード数の上位につけていた。
一方、ブラウザーではディープシークは引き続き利用できている。すでにダウンロードしたアプリによる使用も規制されていないという。
ガランテが説明を求めたのは、個人情報の収集方法やその目的、法的根拠に加え、中国国内でのデータ保管の有無などの項目。「イタリアの数百万人もの人々のデータに対する高いリスクの可能性を考慮した」と説明。欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)に準拠の有無についての調査を始める方針を示した。
ガランテはこれまでもAIの監視に重点を置いてきた。2023年には米オープンAIの「ChatGPT」について「処理されるデータに関し利用者や関係者に十分な情報が提供されていない」として西側諸国として初めて一時的な利用禁止に踏み切った。
ガランテによる早期の説明要請には、極右の保守政党を率いる立場からAI規制の議論に前向きな姿勢をみせてきたメローニ首相の意向も透ける。
24年の主要7カ国(G7)の議長役を務めたメローニ氏は、西側諸国のAI規制論議をリードしようと探っていた。同年6月のG7サミットにはAI規制を訴えるローマ教皇フランシスコを初めて招き、国際的なルール作りについて議論した。
ローマ教皇庁(バチカン)は28日、AIには誤情報を拡散するという「悪魔の影」が潜んでいるとして各国政府に厳重な監視を呼びかける文書を発表していた。バチカンなど欧州の保守層で強まる警戒感も、イタリアの規制の動きに影響した可能性がある。
ディープシークは27日、ChatGPTなど米国製をしのぐ高性能AIを10分の1以下の費用で開発したと発表し、米テック業界や米株式市場に衝撃を広げていた。28日には同社のアプリが米国のアプリストアで一時首位に立ち、米議会では中国のAI開発への警戒感も出ていた。